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0,ppp.@ asa

2018.05.14 Mon
ゴールデンウイークがあけると、毎日のように二人が私の店に立ち寄るようになりました。
正直に言うと、それはそれで嬉しかったのですよ。
まるで学生の頃に戻ったようでした。というよりも、学生生活が義務教育までの私にとって、学生気分それも妄想的な学生気分を味わえているような錯覚。
ゆんと夏子が大学生のとき、気兼ねなく会ってはいたものの、すでに働いている私はどこか引け目を感じていました。意味のない引け目でしょうが、事実なので。

大学に進学した同級生たちが、大学を卒業して社会人になる。そんな当たり前のことが、私には決定的な断絶のようにも思えていたのです。
もう私は、学生になることは、ないでしょうし、ゆんと夏子が経験した学生時代には触れることもできないわけです。そんなこと、とっくに知っていたはずなのに、あらためて思い知らされたというか、どうしようもなく「もう戻れないし無理なんだ」と実感していた春だったのです。
です。
けれども、ね。
「やほお! こんばんは~」ゆんが来ました。
「いらっしゃい、ゆんちゃん」と出迎えます「コーヒーがいい?」
「コーヒーがいい!いちばん高いの!割引で!」
「はい。いちばん安いのを高く売りつけますね?」
「それより、それより」ゆんがカウンターで身を乗り出すようにして私に近づき、内緒話のように言うのですよ、
「つ・イ・に! 始めた?」
私は黙って、うなづきます。
他にお客さまは、いらっしゃいませんでしたので、そこまで気を遣う必要なんてなかったのでしょうが、
「きのうログインしたよ」と小声で答えました。
「そっかあ。やったじゃんよ!」
「おおげさね、なんか」
「いやいやいや。待ちに待ったって感じ。なっつんも電話で興奮してたんだよ今朝」
「今朝?」
「ゆううつな月曜の朝、いきなしよ。かかってきて何事と思ったら、まじナニゴトよ! あさちゃんがあって」
「それは、それは?」
「これは確認せねばと今夜ここに来ようと話してたわけ。あー。待ちわびたわ。長かった月曜まじ地獄」
「おかえり」
「ここは天国みたいだね~」
「地獄でも天国でも人間の世界なのでお勘定はいただきますわよ?」
「つけといて!」
「は!?」
初めて言われました。


『つけといて』
ドラマかシネマかノベルの世界なら、と思いますけど。現実の世界でも、いるのね。言う人。聞くの初めてで。

「やだなあ、あさちゃん。蒼ざめないでよ、冗談だって」
冗談。ああ、そうなの。
「驚いた」
「シャレよシャレ。マジに受け取らないでってば」
「つけといて? ほんとに言う人いるのね」
「だからさ~」
ガラス窓の向こうに夏子の姿が見えました、
「あ。夏子」と私が言うと、
「来た?」ゆんが振り返って窓を見ました。ほんとだ、おーい、としゃべりながら手をふり始めます。
「たぶん見えてないと思う」と私が言うと、
「そうかな。見えてるでしょ」

「こんばんは」と夏子が入ってきてカウンターに来るなり、ゆんの頭をチョップしました。
「なになに、いきなり」ゆんが驚くと、
「なんでも。ごきげんそうね、会長」と夏子が言います。
「いや私は、もう」
「知ってるわよ! 嫌味で言ってるの」
「あさちゃん、こいつさあ、ずっとこんな感じなの。なんか言ってやって」
「はい。ゆんが悪いわ」
「はあ!?」
「だって原因を作ったの、ゆんなんでしょ?」
そうそうそう、そうそう、と夏子がうなづいています。
「夏子は紅茶のほうが好きだっけ?」
「ううん。コーヒーいただくわ。あさちゃんのオススメで」
「かしこまりました」
「なんでふたりして、いじめるかな」
「いじめてなんかないわよ」と夏子が答えます、「ただ事実と現実を言ってるだけのことですから」
「ちくちくするよ~」
「でも、よかったじゃない。ゆん」と私が話に入ります。
「よくない。それ、いやみ~」と、ゆんが言いましたが、
「さっき夏子は、ゆんのこと『会長』って呼んだよ?」
「それもいやみ~」
夏子はメニューを手に取って眺めながら黙っています。
「はじめ私も、そう思ったけど。夏子が言ったじゃない、事実と現実だって」
「だからなに? それが、いやみじゃん」と、ゆんは夏子の脇をつつきます。やめてよと小声で夏子。
「ゆんが会長。いまでも。それが現実。ってことなんじゃないかしら。ね?」と私が夏子に言うと、
「許せないけどね。でも、なんかね。わからなくもないっていうか仕方ないっていうか」
「なっつん?」
「あれからログインしてないんでしょ?」と夏子が言います「誰に聞いても来てないって言うから」
「とうぜんよ。行けるわけないじゃない、あんなことして」
「自覚あるのね」
「自覚もなにも。わるいことしちゃったなって」
「またゼロから始めましょ」と夏子は言いながら私のほうを見ました「それに」メニューを元の場所に戻し「あさちゃんも始めたんだし」
うん。そう。そうだった。よね? と、ゆんが言いながら、
「なっつん、ホントごめん。他のみんなにも、ちゃんと謝る」
「うん。そうしてね?」
「うん。あわせる顔なんてないけど、みんなに会いたい」
「それなら大丈夫よ心配ないわ。メンバーほとんど怒ってないから」
「そう、なの?」
「うん。怒ってるのは私くらい」
「ごめん! なっつん」
ゆんの頭を見たあと、夏子は私に、
「ねえ。聞かせて。どんなだったの?」
「ゲーム?」と私が訊き返します。
「うん」
「それ。気になる。教えて教えて」
「無事にログインできました」
うんうん。それでそれで。と、ゆん。夏子はバッグから手帳を取り出して、なにか確認し始めました。
「入学おめでとう~!みたいな?」
「うんうん」
「あなたの名前を教えてくれる? みたいな」
「うんうん。それでそれで」
「木刀いただきました!」
「やったあ!まじ、はじめたんだね」
「おまたせしました」
「これでやっとみんなで一緒に遊べるね。よかったよかった」
「よろしくお願いします。ね」
「よかった。ほんっとうに、よかった。なっつんもありがとう、教えてくれて。あと、その、えと、
許して?くれて」
夏子は手帳を閉じて、ゆんと私を交互に見ます。首だけ上下に、うなづきつづける仕草で。
「ギルドのメンバーに、ちゃんと謝るから。そしたら、みんなでギルド新しく作って一緒に遊ぼう。あさちゃんも一緒に」
「はい。よろしくね。いろいろ教えてもらわないといけないけどね」
「なんだって教えるし、なんでも聞いて。みんな親切だから初心者とか気にしないでいいからね」
「ありがとう」
「あのう、おふたりさん」夏子が言います「楽しそうに盛りあがってるとこ大変に申し訳ないのですが」
「あ」ゆんが言います「なっつん、ごめん。つい調子に乗っちゃって。ギルドの会長は他の誰かでいいからね?」
「それはまた別の話、いまは気にしてません」
「そうなの?」
「あれ夏子ちょっと不機嫌?」
「不機嫌もなにも」夏子は話し始めました「わかってないようだからハッキリ言います。私たち、みんなで一緒には遊べないから!」


から~んカウベル鳴って条件反射、
「いらっしゃいませ」と私。
お客さまがいらっしゃいました。ゆんと夏子と三人だけの会話は、いったん中断になりました。


気がつけば二時間以上が経過していて、そろそろ店じまい準備のラストオーダータイム。ふたたび店内は、三人だけになりました。

「長居しちゃったね。迷惑じゃなかった?」と夏子が言いました。
「なんだか、あっというまだった。楽しかったね?」ゆんが言います。
「ええ、まあ」私は答えました。
会えて嬉しいのは本当ですし、一緒に話している時間は楽しかった。のですが。
少し混雑してからは仕事の対応が多くて、カウンターでは互いに目と目を合わせてはポーズをとったり、目くばせしたりするくらいでした。なんとなく、いろいろ。いろいろ聞きたいし話したいし確認したいなって思いながらも、言葉にできないまま時間だけが経過していました。


「あさちゃんラストオーダー終わっちゃったけど、なにか飲み物いただけない?」
夏子が最初に沈黙を破ります。
「アイスコーヒー作り置きなら」
「お願いします」
「あ。同じの」ゆんが言いました。


「やっぱり気づいてないみたいですね?」
夏子が話し始めました。
「責めるつもりは、ないです。まったく。
 そもそも? 
 リアルでもゲームでも、
 トラブルメーカーなのは、いつも私。
 なので謝らなきゃいけないの、むしろ私」
「そんなに気にしなくても」と私が言うと、
「あさちゃん!」と夏子が声を大きく言いました。

ゆんは黙ってアイスコーヒーを飲んだり、置いたり、また手に持ったりしています。

深い吐息のようでした。
夏子の態度に「ためいき、しあわせ逃げてくよ~」と、ゆんが言います。
「ご心配どうも」そのまま話を打ち切ってしまう夏子でした。


「そろそろ帰ろうかな」と、ゆんが言います、「また寄るね」
「今日は、ありがとうございました。またいつでも」
そう私が言うと、
「まあ簡単に済ませましょ、話」と夏子が言いました。

ゆんと私は顔を見合わせます。
「あるんだ、まだ。話」と、ゆん。
私はカウンターの中での片付けが済んだので、エプロンを外します。カウンターの端、椅子を出して座りました。
「ええ。言っておかないといけない話が。たぶん私にしか言えない話みたいだし」
「言って」と、ゆん。
私は黙って夏子を見ます。

「ねえ、あさちゃん。ゲームいよいよ始めたのよね?」
夏子に質問されて「はい」と答えます。
「もうログインして、木刀もらって、登校して、それから」
「エピソードというの、やりました」
「おお!」ゆんが声を出します。
「うん。そうよね」と夏子。
「木刀で叩きまくる敵っていうか、校舎の中のエピソード。何回かクリアしました」
「おお!」
「あさちゃん」夏子が言います「ひとつ確認しておきたいのだけれど?」
「はい」
「そうだ。名前、なんて登録したの?」と、ゆん。
「ちょっと。ゆんは黙ってて」
「ごめ」
「名前のこと?」
「違います」夏子は言いました、
「あさちゃん。あなた、どこのサーバーに登録したんでしたっけ?」


サーバー。サーバーって、なんでしたっけ。
「ハモっしょ?」と、ゆんが言います、「ハモさば。ちょっと美味しそう」
はも? はもさば?
「ゲームは最初にサーバーを選ぶの。あのゲームは、三つ。上から、ハーモニカ、フルート、カスタネット」
「ログインするとき表示されるやつだよ」と、ゆん。
私は「いちばん上、選びましたよ」と言いました。
「なんて書いてありました?」と夏子。
「さあ。ハッキリとは」
「いちばん上を選んだんならハモっしょ」
「そうね、いちばん上を選んだんならね」
「いちばん上よ。私が選んだの」
「なっつん、どうしたのさ」と、ゆん。

「言ったでしょ、責める気はない、って。
 だけど、なんで?
 なんでなのよ。
 なんで言った通り約束通りにしてくれないの?」

「なんかそれ、なっつんに言ってるセリフみたい」
「悪かったわよ今まで。でも、でも、だからって」
「どうしたの夏子」
「どうしたのはアンタでしょ、あさちゃん」

え。私?

なに言ってるのか、さっぱりわからないよ?と、ゆん。
「え!?」私は自分に向けられている話だとは思いもよらなかったので戸惑ってしまいました、「私? なの?」
「あさちゃんがどうしたって?」と、ゆん。夏子は、
「あさちゃん登録したのハーモニカじゃないのよ」


「はもじゃない?」と、ゆん、「いちばん上を選んだんでしょ?」
「はい」
「なにがあったかしらないけれど、あさちゃんが登録したのハーモニカじゃないことだけは確かよ」
「だめじゃんそれ」ゆんが大きな声で言います、「さば違ったら会えないよ」
「そうなの?」
「そうなの、って」夏子が吐息を深く。
「そうだよ、あさちゃん。はもさばじゃないと会えないし一緒に遊べないよ」



私は登録したときのことを思い出します。
はっきりと名前は分からない、というより、
『いちばん上を選ぶって言ってたけど、これのことね?』
と、確かに三つの選択肢から、ひとつを選んだ作業がありました。
記憶をたどってみると、
「私が見たときは、上から、カスタネット、次に、フルート、下がハーモニカ、だったような」

「あのね、あさちゃん」夏子が言います「サーバーの表示は順番が決まってるの。古くて人の多いハーモニカがあって、次にできたフルート、追加されたカスタネット。なのよ」
「さすがにカスさばは、上に来ないかな~?」ゆんも言いました「カスさば、新参者が多いってうわさだし、基本的に初心者が選ぶサバじゃないと思うよ?」
「あとでログインするとき確認してくれる?」と夏子が言います。
「わかった。じゃあ確認したらどうしよ。電話、する?」
「ねえねえ、それじゃあさ。みんなで一緒にログインしない?」ゆんが言います。
「ゆんがいいっていうなら。っていうか、ゆんのログイン待ちみたいなもんだったし」と夏子が言います「あさちゃんログアウトしたとき、どこにいたの?」
「エピソード終えて、たしか報告だかのあと、そのまま」
「どこ?」
「さあ?」
「じゃあさ、校舎の前で会おうよ」
「ひといっぱいで、わかりにくいし、混んでたら回線落ちするわよ」
「名前で見つければいいじゃん? なんなら校舎の中のロビーとか。人通りはあるけど、立ち止まる人は少ないし」
「そうしましょ。ログインしたら、校舎に入ってすぐのロビー」

「で。あさちゃん、なんて名前にしたの」ゆんに質問されたとき、よく意味が分かりませんでした。
「名前というのは、登録したときの?」と聞き返すと、
「ゲームの登録じゃなくてキャラのほうね」ゆんが言います。
キャラ?
「キャラ?」私が聞くと、うんうんと、ゆん。
「名前?」私が聞くと、うんうん、そうそう、うなづきながら、ゆんが言います、
「ほら。始めたばかりのとき、あなたの名前教えてって聞かれたでしょ? あれあれ」

私は答えました「あさな。ですよ?」

「はい?」
ゆんが聞き返してきました。
夏子は黙ってガラス窓のほうを向いてしまいます。
まさか、とつぶやいたように感じましたが不確かです。
「あさな?」ゆんが言います「漢字ひらがな、それとも」
「あ。漢字も、ひらがなも入力したのに拒否されちゃって。変だなあって思って。それで、あさなってローマ字でねASA... あれ、ふたりとも、どうしたの?」
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